I医師の 新型インフルエンザ レポート
I医師からのご投稿
2009年9月3日
この国のリスク管理についてですが、非常に危うく感じております。
今年の4月から5月にかけての新型インフルエンザのパニック時には、明確な弱毒株であるにもかかわらず一般診療機関では患者を診られなくなりました。新型インフルエンザの患者が診療所から出ようものなら、有無を言わさずに診療休止に追い込まれますので、みな戦々恐々としておりました。
インフルエンザチェックキットやタミフルの流通もストップして、新型インフルエンザに感染の疑いのある方も診られない状況でもありました。 また、マスクに関しては報道の通りです。
しばらくして、報道も落ち着き、厚労省がマスクでの感染予防に関するニュアンスを修正すると、今度はいきなりまったくの無防備状態となり、それまで医院に来なかったような発熱患者さんが何の連絡も入れずに突入してくるようになってしまいました。
定期投薬患者さんの中では「病院に行くと、インフルエンザをうつされる」という風評が広まり、どこの病院でも定期管理が必要な方の受診抑制がかかりました。
新型インフルエンザの患者に対して、どのような対処をすべきなのかについてのガイドラインや具体的な指示も上からは下りてこず、簡易キットでA型判定がでても保健所に報告すべきなのか報告しなくてよいのか、保健所に直接問い合わせても「『集団に属する者』は届出とDNA検査が必要」と言われるばかりで、どの辺までが「集団に属する者」なのかの明確な線引きがないまま(説明がないまま)、各自治体が(懸命に、しかしながら→トル)バラバラに対応しておりました。
メディアでの公表数と自院に来院される感染者数から得られる印象との間に大きな開きがあり、自院や周りの医院にも調査が入らなかったことから、発表されていた感染者数もいい加減な推定数で、実態からは程遠いものであったと言わざるを得ません。
ワクチン製造の許認可やそれにもとづく生産可能数が限られているのだから、統計的な処理は無理としても、迅速に予想される致死率や重症化率を海外や定点観測の診療所や病院の入院データなどから早めにきちんと出し、新型か季節性か、どちらのワクチンの製造を優先させるかをきちんとすべきです。
また、ワクチンの輸入に関しても慎重であってほしいと思います。一番信頼のおける国内のワクチン製造メーカーを限定しておきながら、安易に外国のワクチンを輸入使用すべきではないと考えます。
さらに、インフルエンザのチェックキットが手に入りにくくなってきました。 これから冬に入ります。 医療現場の混乱はますます深まっていきそうです。
9月6日
新型インフルエンザは七月になっても流行り続けていたので、ここにきて厚労省がワクチンの優先順位を話し合うということに、違和感を感じます。もうとうの昔にやっておくべきことでしょうに・・・。
恐ろしいのは、報道しだいで自在に振り回されてしまう国民の動きと行政の稚拙な対応です。5月の新型インフルエンザ騒動の時に神戸や大阪の観光が冷え込んだので、経済的なダメージを考えて慎重に報じたのではないかと憶測してしまいます。
今回の騒動でも見え隠れしましたが、自治体によっては「もう全数検査をやめる」というところが現れました。しかし、厚労省が「全数検査を継続する」といって地方の検疫所での継続の意向を示しました。(結局、地域の医療機関は自治体の意向に従い、全数検査用の検体を送らなかったのではないかと思います。実際、送れという指示もありませんでした。)このように、国と自治体では方針が食い違います。
気をつけなくてはならないのは、そのような曖昧な状態で、「感染者数」の情報が報道機関ではまことしやかに流されていたということです。 誰も責任を取りたくないからお茶を濁しておいて、後は現場に丸投げは本当に良くないと思います。国が出してくる方針や指示は現実的でなく、現場感覚からは、全く実地に沿っておらず、有効性がないと感じざるを得ません。
新型インフルエンザが毒性の強いタイプのインフルエンザだったらと思うと、この厚生労働省の粗末な対応では大量死がでたと思われるので恐ろしいです。本来ならば、この騒動を教訓にしてもらいたいと心から思うのですが、無理かもしれません。
今の死亡例や重症化例を聞いていても、透析患者や免疫不全患者、一部の呼吸器疾患患者以外は(こどもたちと同じようなリスクとなりますし、)「新型」であるはずの感染症に対してはこどもたちの方が免疫を獲得していない可能性が高いわけですから、こちらを優先すべきだと考えます。また、「持病」という表現が相当あいまいで、かなりの混乱を生むと思います。
9月10日
新型インフルエンザの症状が重症化しておらず、出産や切迫早産の兆候がある妊婦は、かかりつけ産婦人科を受診するという方針が出されました。
新型インフルエンザにおいては、免疫力が下がる妊婦の方が一般の人よりも症状が重くなる傾向があるのであれば、なぜ他の健常妊婦が集まる一般産科へ感染の疑いのある患者を受診させるのでしょうか。
こうなってくると、もうごちゃごちゃです。 一刻も早く、感染濃厚疑い者が受診する医療機関とそうでない方が受診する機関を行政が強い指導力を持って分けるべきです。
インフルエンザの検査と治療は大した手技が必要ないので、発熱患者はたとえば社会的にあまり大きな影響の出ない2次、1次救急対応病院に集約すべきです。
現状のように、大きな怪我や癌や白血病などの抗癌剤治療で免疫抑制が行われている患者が集まる傾向のある総合病院に発熱外来を置いて、多くの人間が免疫を持たぬであろう「新型」インフルエンザウィルス感染が疑われる患者を受診させるべきではありません。
もちろん率先して妊婦にはワクチンを接種し、感染時には一番に産科ではない病院で治療を施し、産科での二次感染を防ぐべきです。 9月28日 先に報告しました通り、地元の自治体では感染者数の適正なカウントは行っておりません。
今現在、A型判定がでれば「新型」として扱っています。さらにインフルエンザのチェックキットの流通がまた止まっているため、疑い例はインフルエンザとして投薬処置しております。
ほぼ蔓延期に入っているにもかかわらず、ワクチン接種の優先順位や一回接種、二回接種など、方針が二転三転し混乱しているようで、末端の医療機関にワクチンはぜんぜん届いていません。
これは本当に恐ろしいことです。 すでに感染してしまった児童に政府は新型のワクチンを打つというのでしょうか? インフルエンザにかかったことは判明しても、それが新型だったかどうかは今のやり方だとわかりません。すでにかかっている場合は、今危惧されているにわか治験で市場にだされるワクチンの副作用のリスクだけが増えてしまいます。
『厚労省は医療従事者や妊婦などを優先する方向で、高齢者は後回しになっている』・・・いまだにこのような書き方をしているマスコミがいますが、こういった形での情報の流布のせいで医療現場では「おまえらは自分たちには優先して打って、わしらには打たんのか」などとクレームをつけるひとたちがでるなど深刻な混乱を招いています。
災害や防疫などの非常時には、治療にあたる人間、ライフラインを維持する人間を優先するということは、そういう人たちがダウンしてしまい、社会全体の機能が維持できなくなることを考えると、多くの人の利益に繋がることで欧米の教科書などには最初の方に書いてあり、当然のことであるはずなのですが、ここでも厚生労働省のその本当の意味を解さない中途半端なガイドラインの適用と不徹底、メディアのそれが社会に与える影響を考慮しない中途半端な問題提起がひとびとの混乱を招いています。
国はこどもたちよりお年寄りを優先接種する方針のようですが、当然のことながら、長く生きている人の方が、新型インフルエンザの免疫獲得率は高いはずです。
しかし、こどもは抗インフルエンザウィルス治療薬の一つである「リレンザ」をうまく吸うことができないことが多く、「タミフル」も厚労省の中途半端な使用禁止指示で一般的なインフルエンザウィルス感染症の10代への投与を止められています。
「新型にはタミフルを使用してもよい」との情報をマスコミには流させても、実際に添付文書にはいまだに「10歳以上の未成年の患者においては、原則として本剤の使用を差し控えること。」と書いてあります。
これだと、インフルエンザチェックキットの流通も止められ、いい加減な診断を強いられている現状ではおいそれともっとも感染性の高いといわれるタミフルの投与を行うこともできません。
タミフルをいい加減に投与して何か起こった際に、裁判の場で責任を負わされるのは医者側だからです。 ある施設の研究では新型インフルエンザは過去に流行ったあるロシア型を起源にしているという話もありますので、
新型かどうか確定診断がつかず、活動性が高く、いわゆる「媒体になりやすい世代」ということを考えれば、何を優先すべきかは明らかだと思います。 9月29日
新型インフルエンザワクチンの情報がまともに発表されることなく時が過ぎていくので、不安にかられた患者さんから次々に問い合わせがありますが、それにはっきりと答えることができないことが非常につらいです。
あらかじめ予想できたことですから、きちんと生産あるいは購入を進め、流行する前に早々に流通させれば済んだことだと思います。 こういうときにこそ、民間でできることは民間に任せれば、ことは一気に迅速に運ぶのに、下手にお上がかかわるとろくなことがありません。
感染が広がっていくと、近々に感染した既感染者に対して新型インフルエンザワクチンを接種する機会が増えてしまいますので、それでは効果も得られない上に副作用のリスクだけを負わせてしまうことになります。迅速に配布することが至上命題です。
医療現場で、輸入ワクチンに懐疑的ではない医師は少ないです。 何が起きても免責しろと言ってきているようなワクチンを接種したいと思っている医療者は、医療現場の第一線に立っていない人だといわずにはいられません。
「新型」ですので、免疫を持たない若い人の感染が多いので拡散力はあります。しかし、通常の季節性のA型が家族内発生を高確率で起こすのに対し、新型の場合は家族内発生をあまり起こしていませんので、通常の季節性のA型ほどの感染力は持っていないのではないかというのが今流行っている新型インフルエンザに対する率直な印象です。
ただし、症状も通常の季節性のA型の方が激烈でしたが、残念なことに新型も最近重症化しやすい傾向がでてきました。 変異を頻繁に起こすのがインフルエンザウィルスの特徴であることを考えれば、この傾向には注意すべきです。
10月7日
地元では、新型インフルエンザワクチンの受諾機関になるかどうかについてのアンケートが昨日、当方の診療所にファックスされてきました。
本日も「A型陽性」の9歳のお子さんが来られた折に、地元の保健所に「新型にかかったひとはワクチンをうたなくてよいとしているが、今現在、A型はすべて新型とみなしており、確定診断がなされていないが、ワクチン接種に関しては母親に今日どう説明しましょう?」と問い合わせると、「少し待ってください…。」と数分待たされて返ってきた答えが、「厚労省のQ&Aには載っていません」でした。
問題は「新型にかかったひとはうたなくてよい」とされたとしても、「A型」が出れば「新型」の可能性が濃厚だといい加減に当てずっぽうで判断しているだけで、だれも新型かどうかを確定診断していないということです。
基本的に小児科と内科系の持病保持者には、感染が広がる前に接種すべきです。 周りでは妊婦の感染者もでてしまいました。 10月9日 ワクチンが確保できたのなら、何故に早く現場に配布しないのかと、忸怩たる思いを抱えています。
この不況下(で)にもかかわらず、一人の接種あたり6150円もします。さらに、国民の3分の2も行き渡るような量を用意したとなれば、きっと余るに違いありません。
もっと対応を柔軟にして、無駄な箱物に税金をバラまくくらいなら、小児や免疫不全者に無料で接種したり、希望者にはもっと早くに行き渡らせるべきです。
10月15日
今日保健所から電話がかかってきた際に、新型インフルエンザワクチンの優先順位の「医療従事者」の範疇について尋ねました。 たとえば、「頻繁にA型感染患者に接触している当院の事務員にはうてないのか」との疑問をぶつけました。
すると、答えは「眼科や高齢者入居施設のスタッフなどからもうちたいとの要請がきており、供給数をオーバーしている」とのことでした。 「高齢者入居施設のスタッフは、患者を診るといっても感染者を診るわけではなく、何かあった際に管理不行き届きだったと非難されて大変だからといった感じでうちたいと言っているのではないのか。第一線で患者に接触する医療スタッフが優先対象者になってしかるべきではないのか」と問うと、
「そうなのですが、そこら辺は患者を誘導しているひととか医療機関の判断でということで・・・」と明確な答えは得られませんでした。 普通に考えて、まさしく最前線で感染者に接する機会の多い医療機関受付がワクチンを打ってもらえないのでは、みなそんな仕事はしなくなるでしょう。
また、保健所からのアンケートには予定接種者数を書くようになっていましたが、患者から予約をとり希望を聞かないことには予定接種者数を出すことはできません。けれど、予約をとっておきながら、当院は受託機関にはなれませんでしたでは済みません。
手を挙げれば必ず受託機関になれる、必要接種数を確定するために予約してもらった患者さんの分は確実に配給してもらえるよう明確な線引きをしてもらえないと、患者さんから質問を受けるスタッフや患者さん自身の問い合わせにも答えることができないのです。
当院では、例年、来院患者の3分の2がインフルエンザのワクチンをうつことはないので、今の経済状況とワクチン代からすると、無料にでもしないかぎり国民の3分の2がうつことなどないと思います。
さらに、新型ワクチンに関しては今のところ基本的に返品不可だそうです。 さらに本日、ワクチンの担当卸に聞いたところ、県の薬務課から卸へはこのアンケートでの予定数が納入される予定だそうです。・・・予定ばかりですね。
10月18日
国(の委託先)から、調査票がまた送られてきました。 一見必要な調査のようですが、これと同じようなものが2,3件、国や自治体、保健所などからバラバラに送られてきます。
つまり同じような調査が、2,3件あるということです。 感染者が増加してきてただでさえ激務なのに、これ以上業務を増やしてほしくはないと、頭を抱えてしまいます。
しかも、調査に回答したとしても、現場の意見が反映されるという実感は乏しく、とりあえず調査を行ったという形式的なものが多いというのが実態だと思います。
次に新型ワクチン情報ですが、元々は地元自治体では明日より接種開始というプランだったようですが、国がからむとろくなことがありません。 医師会経由で「何本要りそうか」といった見込み発注数のアンケートが各医療機関に配られたのが先週金曜日。保健所からは15日付けで封書が週末に届き、接種開始予定翌日である火曜日に必着などといった文書を送ってきます。
しかし、国が配布制限を卸にかけているらしく、そのため、発注分がいつ入るかもわからないようになっており、まともに予約を受けることさえできません。
まず、数を把握するには予約を受けなければなりません。「うてるかどうかわからないが、もしもうてるならうちたいですか?」などといった調査の仕方は、2度手間になり煩雑で、業務が立て込んでいる中、とてもじゃないができません。
医療現場では接種方針やプランの取り決めに関しての情報が錯綜し、正しい情報は不足しています。医療現場のみでなく、保健所も相当混乱しているようです。
10月21日
スタッフ用の新型インフルエンザワクチンが、当院には昨日2本届きました。 11人分のスタッフ分を知らせていたのですが・・・。 「何本くらい要りそうですか?」といったアンケートが、神戸市保健所の方からありましたが、それに基づき配布数を決定するとはどこにも書いてありませんでした。
急なものだったので、とりあえず確定できるスタッフ分を書いて、持病持ちの方の人数は不詳、自分のかかりつけ患者さん以外も受け入れる旨答え、送ったものがあとで県の薬務課の方に回されて配布数となると聞いたのが数日後。
それでもなぜか県の薬務課からは当院への配布数は合わせて4本になると文書できました。 保健所いわく、想定していた配布数をオーバーしている状態だからだと。
ワクチン接種の委託契約を国と結ぶ期限が昨日の5時でしたので、昨日、郵便で「2度接種すること」と書いてある契約書を送っている最中に、国の方針が1回接種に変わりました。しかし、すぐに「検証して再検討する」に転じ、今日になって行政判断で再び2回接種に。
おそらく、今の流れからすると、新型ワクチンは余ります。 しかも、段取りが悪すぎるので、接種を希望している方のところにワクチンが届くのは、十分蔓延しきってからということになると懸念します。
10月24日
医療スタッフにおけるワクチン接種の優先順位を、医師、患者に濃厚接触する看護師看護助手、医療事務といった順でもうけましたが、まだ2本しかありませんから、二人分(理論上は役所は1本で2回打てるので「二人分2本」として送って来ていましたが、実際上はいったん開封すると24時間以内に使い切らなければならないので、4人分の1回分です)のワクチンしか接種できません。
このように役人が「渡してうっているはず」と思い込んでいても、まだうてていないひとも多いと思います。 また、限定的なワクチンを有効利用するために、余った分を子供たちにうとうかとも思いましたが、優先対象者の順序を飛び越えて打つことはまかりならぬというお達しがきているため、非常にもったいない話ですが、残念ながらあまった分は泣く泣く廃棄せねばなりません。曖昧な部分は現場に丸投げなのに、こういう部分こそ、もっと柔軟に、現場判断に任せて欲しいと切に思います。
10月27日
昨夜のテレビタックルをみました。 医系技官(医師免許を持つ厚生官僚)のことをやっていました。 官僚の仕事は世間のイメージする医者の仕事からはほど遠く、医療現場をまったく知らない人も多いのは事実です。
残念ながら、権威主義に陥り、天下り先の保護を考える人物も恐らく存在します。 ワクチン行政は、そういった天上人然とした人達が行っているわけです。
今回の新型インフルエンザは弱毒性だからよかったものの、今後、この体制のまま強毒性の鳥インフルエンザに襲われたらと思うと、恐怖を覚えます。 一刻も早く、今回の対応の遅れを検証し、改めるべきところは改めるべきです。
相変わらず役所からは、混乱の最中だというにもかかわらず、調査用紙ばかりが届きます。 県医務課の問い合わせの内容には、すでに地域の保健所の毎年の調査にさらに詳しい内容を答えており、役所がまったくばらばらだということを表しています。
テレビタックルでは、「こんな非常時に何故4つのワクチンメーカーのみに製造をしぼるのか」と、女性の医系技官の方が厚労省に対して疑念をぶつけていました。
現場の医師としても、その(自分たちの利権保護という)疑惑に対する答えが知りたいです。 明快な答えは返ってこないでしょうが・・・
11月2日
アナウンスと配布される文書の内容に齟齬があるという、悲惨な状況が医療現場では起きています。
「11月2日から接種を開始」と書かれれば、みんなそうだと思います。 しかし、実際にはワクチンが届く気配がまったくありません。 ここ数日、振り回されてばかりです。
患者からの問い合わせも激しく、まさに医療者は板挟みの状況に置かれています。
医療現場というものは、国や地方自治体の行政組織や地元の医師会、保健所などのモザイクのような構造体の中におかれ、翻弄されている実情があります。
私たちは、どうしても最前線の現場しか知りえず、同時にお上は最前線の現場のことが見えないのでしょう。
11月10日
参院予算委員会の質疑で、インフルエンザワクチンの10ml問題について、舛添前厚生労働大臣が「わたし、その話聞いたとき、認可しませんでしたよ。赤ちゃんに打つときは、50人分打てるんです。50回、針を替えるとき、人間がやることだから針、替え忘れたら新たなる薬害になりませんか?」と長妻厚労大臣を攻めていました。長妻厚労大臣は「(ワクチンの)量を確保したいという思いの中で、ぎりぎりの判断をさせていただいたと、ご理解をいただきたいと思います」と答えました。これに対し、舛添前厚労大臣は「最初にやるべきことは安全なんです。そしてそれはね、やっぱりね、そこはね、しっかり大臣、頑張って、官僚にだまされないようにしないと」と述べていました。
・・・驚きです。
この段になっていまだにこんな討論をしているとは。 まず、ワクチンは皮下注射ですので、通常の免疫機能を持つひとであれば、雑菌の混入はほとんど問題になりません。
10ml容器にまつわる問題の本質は、医療過誤の可能性ではなく、小さな診療所では20人や50人まとめて患者が来るわけがないという点なのです。 たとえば土曜日の週の終わりに24人来たら、どう考えても20-4=16人分のワクチンが無駄になってしまうということです。
1mlは明らかに集団接種、もしくは大病院などの大施設用のバイアルです。一旦受け取ってしまうと、返品不可ですので、小さな診療所が抱えるには相当な経営リスクになります。
2日に接種開始という大々的なアナウンスがありましたが、医療現場の実感としてはとてもそんな状況とは思えず、医者の噂レベルではワクチン配布は16日以降になるのではとささやかれています。
春先に新型インフルエンザの騒ぎがあり、流行感染期にこのような状況に陥ることは容易に予測できたはずなのに・・・さらにワクチンの生産に時間がかかることを考えれば、早期にちゃんとした対策をとらなかった人達にも問題があるのではないでしょうか。
11月11日
アンケートに答えたにもかかわらず、申請した数のワクチンも来ないので予約を打ちきったのですが、「確定数を教えて欲しい。ただし、返品はききません。」との書面がまた来ました。
このままでは「注文しただろう」と、10ml容器が送りつけられてきそうです。 基本的にはこういったパンデミックワクチンは、学校や保健所ですべきだと思います。
そうすると、大容量ワクチンの有用性も無駄がなく活きてきます。 接種予約を受けないと、接種希望人数を報告することはできません。 しかし、予約を取ってもワクチンが来ないとなると、そのことがトラブルのもとになってしまいます。
毎日、患者さんたちに、同じ説明を何度も何度も繰り返しています。
11月11日
厚労省が、新型インフルワクチンについて、健康成人の場合1回接種にするとの方針を示しました。
元々、接種回数は、現行では医療従事者だけが季節性ワクチンと同じ1回で、あとは原則2回でした。 妊婦や10代の小児については、「11月下旬以降」に出る別の臨床試験の結果を待って検討するとのことです。
健康成人の場合、一回接種にするとの方針を示しながら、政府は来春までに2回接種を前提に、7700万人分のワクチンを確保するとしています。このうち国内産は2700万人分ですから、残りを輸入するつもりなのでしょう。
1回接種の対象者が広がれば、ワクチンが節約できるという次元のレベルではありません。 接種時期が遅く、新型インフルエンザウィルスはすでに蔓延期に入りつつあります。
需要はどんどん目減りしていっています。 ワクチンがだぶつくことは、もはや自明の理です。
11月12日
目まぐるしく動いています。 ワクチン接種に関し、妊婦・高齢者を含めて原則1回の方針を、昨夜、厚労省が発表しました。
長妻厚生労働大臣は「接種回数を1回にしたことで、次の優先接種の対象者に早く接種できる」と語っていました。 1回にするか、2回にするか、揉めている間に、何故に速やかに1回目の接種に踏み切らなかったのか・・・
段取りの遅さに絶望します。 そうこうしているうちに、新型インフルエンザに感染して重症化した小さな子供たちがICUで闘っています。 季節性と同じくらいの時期に新型ワクチンを打てていれば、もしかしたら感染がまぬかれたかもしれません。
これだけ手遅れになった今できることは、早々に優先接種順位としばりの見直しをすることだと思います。
11月15日
本日から当院も持病持ち患者へのワクチン接種を開始しました。
そこで例に漏れず幼児1人分のワクチンが余ったのですが、そこへ季節性の2回目を打ちに来た7歳の子供がおりました。できうるならば、新型ワクチンを接種してあげたい気持ちはやまやまですが、規則の壁があります。
もったいないですが、本当にくやしいですが、廃棄です。
11月22日
今必要なのは、前倒しではなく、優先接種順位の見直しと現場の裁量による接種です。
さてさて、そうこうしているうちにもっと深刻な状況が近づいてきています。 また、新型インフルエンザワクチン接種後の死亡例も、メディアをにぎわせ始めました。
新型インフルエンザ感染者の多くが14歳以下であることを考えると、高齢者にワクチンを接種するのはリスクばかりが多いのかもしれません。
11月24日
インフルエンザの予防接種ですが、自治体による偏り以上に問題なのが、担当科目による偏りのようですね。 近所の病院の地域医療連携の会合があったのですが、内科は比較的声が大きいドクターが多いせいかそれなりに優先接種者に対する割り当ても進んでいるようなのですが、産婦人科には全然回ってこないとのことでした。
当院に来ている役人の方も「役所はうるさいところには弱いので、強く何度も言ったところには回すと思います」と言っていました。
11月25日
希望した量の2パーセント分しか、現場にはまだワクチンが届いていないそうです。
現在、当院では成人層に再燃がみられていますが、最盛期は過ぎたように思えて仕方ありません。 ワクチンメーカー国内4社は、基本的に季節性ワクチンも例年の8割を製造し、その後に新型ワクチン製造に切り替えたのだそうです。
ここが問題なのです。 今流行っているパンデミックワクチンの生産が後回しになってしまっていること・・・ 国内産のワクチンは鶏の有精卵にウイルスを感染させて増やすものです。
しかし、鶏が産む有精卵を急に増やすことはできません。 だからこそ前々から計画的に準備を進めておかないといけないのですが、方針が後手に回ったために国内産だけでは必要量を賄えないということになり、海外のメーカーから特例承認という形での輸入することになりました。
不純物が混じっている海外メーカーのワクチン、しかも何かあっても何の補償もしてくれないものを、輸入する決断をすべきではないと直感が告げています。
11月26日
毎日、患者さんへの説明の嵐です。 ワクチンも、いつ来るかわからない。 さらに、日本へ輸入する予定のワクチンですが、カナダで酷い副反応があったというニュースがありました。
ワクチンがどうやら余りそうな感じもでてきているらしいので、今回の副反応問題によって輸入を断る理由になるのではないかという話もあります。 きちんと対応していただきたいのですが・・・
11月30日
医療従事者用11人分を頼んで4人分しかこなかったので、患者への接種用は念のために当初、多めに頼んでおりました。 しかし、途中で「返品不可」のお達しがきたので、供給量も圧倒的に少ない現状を鑑みて、今度は「今、実際に予約をいただいている数」に申請しなおしました。
集団での任意接種にしていたら、もちろん一か所にたくさんの希望者が殺到するでしょうが、窓口が一本化されるので診療所での無用な混乱を少しでも和らげることができたのではないかと思います。
行政と医療機関とが共同で集団接種ができていればよかったのですが、責任をどこが持つかという問題があってうまく進まなかったという話があります。 12月1日
混乱の一因には、10月初めの段階で、厚労省は集団接種を積極的に勧めなかったことがあると思います。安全確保のために「基本的に個別接種で」ということでした。しかし、11月に入ってから、文書で集団接種の検討を現場にだしました。しかしその文書が出されたのは医療機関に届けるワクチンの配分先を決めた後だったため、自治体や医療関係者から「もっと早く勧めていれば混乱は避けられた」「対応が遅い。1カ月もロスした」などの批判が起きています。
ワクチンの効能、免疫獲得率、ワクチンの確保数が足りぬことを考えたら、感染の拡がりやすい母集団での集団接種を行うべきです。 結果的に、自治体によって集団接種踏み切るところ、個別接種で対応するところと温度差がでました。
私の医院では個別接種ですが、基本的にはワクチンを打つひとと一般患者は分けなければならないので、その場所の確保と人繰りをするのも大変です。 感染力というのは、たとえば感染を成立させるのに100個のウィルスが必要として、100個感染しても10個しか排出しなければ、致死力はあっても感染力は弱いといえますし、たとえ弱毒性であっても、1000個感染して10億個のウィルスを排出すれば感染力は強いといえます。
あとは、これまで生きてきた経験、積み重ねてきた免疫などによる受け手側の状態に左右されます。 新型インフルエンザに抱いていた当初の印象どおり、免疫を持たぬ子供たちの間での拡散力はありますが、普段の季節性と比べて意外と家族内発生率は低くなっています。
ただ、最近は外来に来られる新型インフル感染患者さんの初期症状が重篤化してきたので注意が必要です。 それでも免疫を持たぬ層での拡散力があるだけで、恐らく普段の季節性と比べて合併症発生率、致死率ともにそんなに高くないと思いますので、必要以上に怖がる必要はないと感じています。
12月8日
輸入ワクチンの副反応問題です。 通常より高い頻度で重い副作用が起きた問題で、「カナダ政府がワクチンは安全」とする見解を示していることを厚労省が発表しました。
カナダ政府は、問題は特定の製造番号を持つ一部のロットに限られるとし、問題のロットで副作用が起きた原因は分からないものの、ワクチンに用いたウイルス株や免疫補助剤「アジュバント」に問題があるとは考えにくいとしているということですが・・・原因は分からないのに、何が安全と言えるのか、不安はぬぐえません。
出荷制限がかかっていた影響で、季節性ワクチンが余りだしました。 当院では今週から基礎疾患患者優先で新型ワクチン接種を開始しましたが、新型も余りそうな勢いです。
しかし、依然として「一旦入荷すると返品不可」の状態のため、少量ずつのオーダーをかけ、来たら打つ、消費しそうならまた予約を取りオーダーという非常に煩雑な接種の仕方をしています。
また、数量が限られているので「○○日~○○日の間に来てもらえたら打てます」といって電話をかけるのですが、「打つワクチンについて聞きたい」、 「国産か外国産か?」「防腐剤は入っているのか」と電話の際には質問責めにあってしまいます。質問に答えていると、目の前の患者の診察時間を削っていくことになり、常にジレンマを抱えています。すっきりと、わかりやすい制度にしていただいて、少しでも現場の医療者の負担を軽減させるように、想像力を働かせてほしいと痛切に願います。それが、結果的に多くの患者のためになることだと思います。
<おわりに>
現場の医療者達の苦闘は、世間が新型インフルエンザ騒ぎが過去のものだと思っている現在も続いています。昨年の新型インフルエンザの混乱をしっかりと検証して、未来に備えなくてはなりません。強い毒性を持つウィルスに上陸される前に・・・・(編集・関根友実)
|